透明思考

あらかたの仕事をおえての家路
だれもいない車両にのりこむ
けれども座席につくと、目の前の席にはいつのまにか
あなたが座っている

もしも、わたしがあなただとしたらどうだろう
どんなきもちがするだろう

わたしのやりのこした仕事はたいしたものではないし
そもそもたいした才能もないのだから
べつにやりのこしたからといって
なにかがおこったりするわけではないのですよ
きっと

と、あなたはいう
あるいは、わたしがいう

いずれにしろ、たいしたことにはならないのですよ
わたしたちはサルだった時代から数えて
何億回も父親たちと母親たちがせっくすをかさねたけっかなのですよ
地球の自転周期は24時間なんですけれども、じつはそれより
ほんの少し短いのですよ
あなたとわたしが入れ替わったところで
なにかがおこったりするわけではないのですよ
おそらく

おそらく、ね
と、あいづちをうつ、わたしたち

わたしたちを乗せた列車は長いトンネルにさしかかる
わたしたちは立ち上がり、抱擁を交わし、たがいのほほにキスをする

やがて列車は名も知らぬ駅に到着し、そこであなただけが列車を降りる
あるいは
わたしだけが

しまりゆくドアのすきまにすべりこませるように、わたしたちはいう

いつかまたあいましょう

いつかまた
あいましょう