幻の獣
ある男が雪山に立ち
こう叫ぶ
私は見たのだ!
その巨大な人影を!
また
ある男が写真を手に持ち
街路の真ん中でいう
この黒く長い首を見よ!
わたしは黙っている
深夜
やってくる
小人たちのことを
毎夜
踊り
歌い
嘆き悲しむ
小人たちの
演じる
物語のことを
それは
わたしたちの未来
それは
わたしたちの至るべき道筋
わたしは知っている
わたしたちが
これから
どうなってしまうのか
を
夜明け前に
物語を語り終え
小人たちは
帰っていく
それから
わたしは
顔を洗い
歯を磨き
朝食を食べて
隣人におはようと笑顔を向け
なにも知らないフリをして
仕事にでかける
わたしは黙っている
かわいそうな幻の獣たちに
今日ぐらいは
楽しく過ごしてもらいたいから